おい!
コッラアアアア!!
いらん言うてるやろ!
なめとんのか?ワレ!!
しつこいんじゃ!
「帰れーッ!!」
「ドン!!」
襟首をつかまれ、殴られるように廊下に追い出された。
「お前がしつこいからじゃ!ボケ!」
「バタン」!!!
つかまれた首のあたりが、ズキズキと痛んだ。
時計を見た。
「21時」
「はぁ〜っ」
「俺、やっぱり営業向いてないよ・・・もう、辞めたい・・・・・」
すでに、同じ時期に入った40人近い同期の連中は、最低でも一本の契約は上げている。
私を除いた最後の一人が、昨日契約したのだ。
入社以来「契約ゼロ行進」を続けているのは、今日から、私たった一人だけになっていた。
私は23歳の時から「飛び込みセールス」を始めた。
リフォーム、広告代理店・教材販売会社などに勤めるが全く結果が出ずに
「もう、飛び込み・テレアポ営業のきつい会社は、もうイヤだ」と逃げるように退社した。
「次は絶対!飛び込み・テレアポの無い会社」を基準に面接を受け某不動産販売会社に入社。
しかし、実はその不動産会社は「飛び込み・テレアポ」主体の住宅営業会社だと
入社一週間後に判明し愕然とした思いになる。(面接ではそんなことはしないって言ってたのに・・・)
それも、今までの会社が可愛く見えるほど、半端じゃないバリバリの営業会社。
逃げることすら許されず「もう、死にたい・・・」と、考えること数えきれず
怒られない事だけを考えながら同僚とグチを言いあう日々が続く。
多分ここを上手くやめれたとしても
どうせまた同じような会社に入ることになるんだろうな・・・・
怒濤のごとく毎日詰められ、絶望を経験してるうちに
「クソッ!どうせ、逃げられないのなら、とことんやったる!」と、究極の開き直りが芽生え、ようやく本気になる。
しかし、本気になったからと言って、いきなり成績があがるはずもなく、
結局入社してから契約「ゼロ」なのは45人の同僚の中でも、私ただ一人だけという日が何週間も続いた。
「お前、給料泥棒やな!」
この言葉を上司に浴びせられたとき、本気で退社を考え始める。
「俺にはやっぱり営業は向いていないんだ。センスがないんだよ・・・」
そして、翌日の朝
「今日アポがとれなかったら、本当に辞めよう。しかし、そう決めたからには
後悔しないようにガムシャラにやってみよう」
そう決心をして、会社に向かい、みんなで飛び込みの現地に向かった。
気力も体力も充分!根性も精神力も100%!「充実した気持ちで頑張れば、必ずアポは取れる!」
よくそう言っている上司の言葉を思い出し「それなら、今日は絶対にアポは取れるぞ!」
と、意気込んでいた。
季節は、まだ2月。
夜の外の廊下には今にも凍ってしまいそうなほどの鋭い冷たさを含んだ風が吹いていた。
寒さに震えながら、今の状況をアポ用紙に書き込む。
「留守」
隣の家の玄関をノックする。
「コンコン」
「・・・」
階段を下り、次の家の玄関をノックする
「コンコンコン」
「・・・・」
その隣の玄関を叩く。
「コンコンコン」
「・・・」
チャイムを鳴らす。
「ピンポーン」
「・・・・はーい、どちらさん?」
「あ!夜分遅くにすみません!実は・・・」
「ああ!もう良いです!結構ですから!!!」
「・・・・」
(まだ、何も言ってないのに・・・)
寒さで、だんだん指の感覚が無くなってきた。
思うように字が書けない。
「クソッ!」
次の玄関をたたく。
そして断られる・・・。
次
たたく・・・・断られる。
次
たたく・・・怒鳴られる。
次
たたく・・断られる。
そして
たたく・・・・次、たたく・・・次、たたく・・・・・たたく・・・・・・たたく・・・・
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
感覚の全くない氷のような指の関節が動かすたびにギシギシと鳴る。
突き刺すような冷たい風に、顔がこわばる。
.
スーツの上からゾクゾクと寒さがしみ込み、
ヒザもガクガク震えてきた。
「・・・・寒いよ」
時計を見る。
「21時」
「ダメか・・・」
タイムリミットだった。
朝から延べ、300件以上の玄関をたたいてきた。
そして・・・やっぱり、一件のアポも取れなかった。
終わった・・・全て終わった・・・。
「まあ、よく頑張ったよ・・・」
全く感覚の無くなった、かじかむ指をさすりながら、
生まれて初めて、自分で自分をほめた。
いや・・・
なぐさめた・・・。
翌朝、私は上司に辞表を出した。
すると、その上司が「オーナーが呼んでる」と言ってきた。
そのオーナーの詰めは凄まじく、詰めも常識では考えられないほどの詰め方をするという事は
前から知っていた。
「え〜っ。もう、いいですよ。辞めるんですから」
「いいから、来い!」
「どうせ、詰められるんでしょ?もういいですって!」
「大体、オーナーが僕になんの話があるんですか?」
「もう、関係ないでしょ!辞表出したんですから!」
そう言って聞かない私を横目に、その上司はどこかに電話をかけ始めた。
「あ、お疲れ様です。今から有川を連れて行きます。」
「はい・・・ええ・・・はい・・・そうです。分かりました。よろしくお願い致します」
「ガチャッ」
「何なんですか?今の電話は!行きませんよ!」
「絶対に行きませんから!」
上司は、私の声など聞こえていないかの様なフリで、そそくさと外出の準備をすませこう言った。
「無理だよ。今から時間を作ってくださるそうだ。いいから来い!」
「辞めるなら、自分の口でオーナーに言え!ほら、行くぞ!」
「・・・・・・」
その言葉に、何も反論出来なかった私は、
引きずられるように、オーナーの事務所に連れて行かれることになる。
私には分かっていた。
そこでオーナーの恐怖の怒濤の詰めを浴びることになることを。
しかし、分かっていなかった。
そのオーナーの「詰め方」が、私の最強営業人生の「スタートボタン」になるということを・・・。
続く・・・
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